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レッドベリル──宝石界で“奇跡の赤”

レッドベリルは、エメラルドやアクアマリンと同じ「ベリル(緑柱石)」グループに属しながら、圧倒的に産出量が少ないことから「エメラルドの数千倍希少」ともいわれる、きわめて貴重な宝石でございます。 マンガンによって生み出される深いラズベリーレッドの色合いは、ルビーともガーネットとも異なる、ベリル特有の透明感と気品を湛えた“唯一無二の赤”でございます。 本稿では、レッドベリルの歴史・産地・価値・特徴などを、できるかぎり丁寧にご紹介させていただきます。 1. レッドベリルとは レッドベリルは、化学組成 Be₃Al₂(SiO₃)₆ を持つベリルの一種で、そのうち三価マンガン(Mn³⁺)が含まれることで赤色〜ラズベリーレッドに発色いたします。 同じベリルでも、 クロムやバナジウムを含むと エメラルド(緑) 鉄を含むと アクアマリン(青)になるのに対し、レッドベリルはマンガンによる赤色が特徴でございます。 正式名称は Red Beryl(レッドベリル) ですが、発見者の名にちなみ Bixbite(ビクスバイト) と呼ばれていた時期もございます(現在は鉱物名としては混同を避けるため、主にレッドベリルの名称が用いられております)。   2. 発見の歴史 レッドベリルが最初に報告されたのは、20世紀初頭のアメリカ・ユタ州でございます。 鉱物収集家 メイナード・ビクスビー(Maynard Bixby) 氏が、ユタ州トーマス山地で異彩を放つ赤いベリルを発見したことが始まりとされております。 当初は他の鉱物と混同されることもありましたが、その後の研究によって「ベリルの赤色変種」であることが明らかになり、きわめて稀少な宝石として世界のコレクター達から注目されるようになりました。 まだ歴史の浅い宝石でありながら、その希少性と美しさから、すでに“伝説級”の存在感を放っている宝石でございます。  ...

レッドベリル──宝石界で“奇跡の赤”

レッドベリルは、エメラルドやアクアマリンと同じ「ベリル(緑柱石)」グループに属しながら、圧倒的に産出量が少ないことから「エメラルドの数千倍希少」ともいわれる、きわめて貴重な宝石でございます。 マンガンによって生み出される深いラズベリーレッドの色合いは、ルビーともガーネットとも異なる、ベリル特有の透明感と気品を湛えた“唯一無二の赤”でございます。 本稿では、レッドベリルの歴史・産地・価値・特徴などを、できるかぎり丁寧にご紹介させていただきます。 1. レッドベリルとは レッドベリルは、化学組成 Be₃Al₂(SiO₃)₆ を持つベリルの一種で、そのうち三価マンガン(Mn³⁺)が含まれることで赤色〜ラズベリーレッドに発色いたします。 同じベリルでも、 クロムやバナジウムを含むと エメラルド(緑) 鉄を含むと アクアマリン(青)になるのに対し、レッドベリルはマンガンによる赤色が特徴でございます。 正式名称は Red Beryl(レッドベリル) ですが、発見者の名にちなみ Bixbite(ビクスバイト) と呼ばれていた時期もございます(現在は鉱物名としては混同を避けるため、主にレッドベリルの名称が用いられております)。   2. 発見の歴史 レッドベリルが最初に報告されたのは、20世紀初頭のアメリカ・ユタ州でございます。 鉱物収集家 メイナード・ビクスビー(Maynard Bixby) 氏が、ユタ州トーマス山地で異彩を放つ赤いベリルを発見したことが始まりとされております。 当初は他の鉱物と混同されることもありましたが、その後の研究によって「ベリルの赤色変種」であることが明らかになり、きわめて稀少な宝石として世界のコレクター達から注目されるようになりました。 まだ歴史の浅い宝石でありながら、その希少性と美しさから、すでに“伝説級”の存在感を放っている宝石でございます。  ...

アレキサンドライト “昼は緑、夜は赤”

アレキサンドライト(Alexandrite)は、「昼に緑、夜に赤」 という劇的な変色性を持つ、世界の宝石史においても特に稀少で、神秘と伝説に満ちた宝石でございます。 本記事では、その歴史・産地・価値・特徴をはじめ「なぜアレキサンドライトは奇跡と呼ばれるのか」その理由を丁寧にご紹介申し上げます。 ⸻ ■ 1. 名称の由来と歴史 — ロシア皇帝が愛した宝石の誕生 アレキサンドライトが発見されたのは 1830年頃、ロシア・ウラル山脈。その日、採掘者たちは日中の自然光では深い “森の緑” を放つ石を見つけました。しかし、夜にキャンドルの下で見ると、その石は突然 赤ワインのような赤紫色 を呈したのでございます。 この奇跡的な変色に驚愕したロシアの宝石界は、当時の皇太子 アレクサンドル二世(後のロシア皇帝) の誕生日にちなんで、この宝石を 「アレキサンドライト」 と命名。  以降、ロシア皇室・貴族の宝飾品として大切に扱われ、“王の宝石”として世界にその名を広めました。 ⸻ ■ 2. 主な産地 — 良質アレキサンドライトは世界でも極めて稀少 アレキサンドライトは採掘量が少なく、現在流通している良質個体はごくわずかでございます。 ● ロシア・ウラル山脈(伝説的最高峰)...

アレキサンドライト “昼は緑、夜は赤”

アレキサンドライト(Alexandrite)は、「昼に緑、夜に赤」 という劇的な変色性を持つ、世界の宝石史においても特に稀少で、神秘と伝説に満ちた宝石でございます。 本記事では、その歴史・産地・価値・特徴をはじめ「なぜアレキサンドライトは奇跡と呼ばれるのか」その理由を丁寧にご紹介申し上げます。 ⸻ ■ 1. 名称の由来と歴史 — ロシア皇帝が愛した宝石の誕生 アレキサンドライトが発見されたのは 1830年頃、ロシア・ウラル山脈。その日、採掘者たちは日中の自然光では深い “森の緑” を放つ石を見つけました。しかし、夜にキャンドルの下で見ると、その石は突然 赤ワインのような赤紫色 を呈したのでございます。 この奇跡的な変色に驚愕したロシアの宝石界は、当時の皇太子 アレクサンドル二世(後のロシア皇帝) の誕生日にちなんで、この宝石を 「アレキサンドライト」 と命名。  以降、ロシア皇室・貴族の宝飾品として大切に扱われ、“王の宝石”として世界にその名を広めました。 ⸻ ■ 2. 主な産地 — 良質アレキサンドライトは世界でも極めて稀少 アレキサンドライトは採掘量が少なく、現在流通している良質個体はごくわずかでございます。 ● ロシア・ウラル山脈(伝説的最高峰)...

《パパラチァサファイア — “蓮の夕映え” の宝石》

  パパラチァサファイア(Padparadscha Sapphire)—— その名を耳にした瞬間、宝石に詳しい方ほど思わず息を呑む、「極めて稀少で、特別な存在」を象徴するサファイアでございます。 本記事では、その歴史・産地・価値基準・種類をはじめ、パパラチァが“奇跡の宝石”と呼ばれる理由を、Godfrey&c の視点から丁寧にご紹介いたします。 ⸻ ■ パパラチァの語源と歴史 ― 古代から愛された神秘の色彩 「パパラチァ(Padparadscha)」という名は、古代シンハラ語の “Padma-raga”(蓮の花の色) に由来いたします。 蓮の花びらに射す夕陽のような、オレンジとピンクが溶け合う絶妙な色を表す言葉として、古くから王族・宗教指導者・僧侶たちに愛されてまいりました。 特にスリランカでは、パパラチァは 「浄化」「愛」「幸福の循環」 を象徴すると信じられ、結婚、儀式、祈願の際に特別な護符として使われてきた歴史がございます。 ⸻ ■ 主な産地 ― 世界でも極めて限られた地域のみ パパラチァサファイアが採れる地域は、世界でも驚くほど限られており、現在の主要産地は以下の通りです。 ● スリランカ(セイロン) 最も伝統的な産地。 自然光の下で最も美しい「夕映え色」が採れることで知られます。 ● マダガスカル...

《パパラチァサファイア — “蓮の夕映え” の宝石》

  パパラチァサファイア(Padparadscha Sapphire)—— その名を耳にした瞬間、宝石に詳しい方ほど思わず息を呑む、「極めて稀少で、特別な存在」を象徴するサファイアでございます。 本記事では、その歴史・産地・価値基準・種類をはじめ、パパラチァが“奇跡の宝石”と呼ばれる理由を、Godfrey&c の視点から丁寧にご紹介いたします。 ⸻ ■ パパラチァの語源と歴史 ― 古代から愛された神秘の色彩 「パパラチァ(Padparadscha)」という名は、古代シンハラ語の “Padma-raga”(蓮の花の色) に由来いたします。 蓮の花びらに射す夕陽のような、オレンジとピンクが溶け合う絶妙な色を表す言葉として、古くから王族・宗教指導者・僧侶たちに愛されてまいりました。 特にスリランカでは、パパラチァは 「浄化」「愛」「幸福の循環」 を象徴すると信じられ、結婚、儀式、祈願の際に特別な護符として使われてきた歴史がございます。 ⸻ ■ 主な産地 ― 世界でも極めて限られた地域のみ パパラチァサファイアが採れる地域は、世界でも驚くほど限られており、現在の主要産地は以下の通りです。 ● スリランカ(セイロン) 最も伝統的な産地。 自然光の下で最も美しい「夕映え色」が採れることで知られます。 ● マダガスカル...

スピネル|千年の誤解、静かな名宝石

◆ はじめに 深い紅、澄んだ青、やわらかなピンク、神秘的なグレー。 スピネル(Spinel/尖晶石)は、一つの名前でありながら、多彩な色彩と表情を宿す宝石でございます。 その歴史は古く、しかし「スピネル」という名が正しく認識されるようになったのは、実のところごく近年のことでございます。長い年月のあいだ、ルビーやサファイアと見なされ続け、ひっそりと王冠や宝飾品に寄り添ってきた——「千年の誤解を受けた宝石」 とも呼べる存在でございます。 本稿では、この魅力的な宝石スピネルについて、その歴史・産地・価格感・稀少性・種類・特徴を、Godfrey&c の視点から丁寧にご紹介申し上げます。 ⸻ ◆ 歴史 ― ルビーと間違われ続けた宝石 スピネルの歴史は、宝石の世界の中でも特に興味深いものでございます。 かつて、深紅のスピネルは、その色合いと透明感ゆえにルビー(コランダム)と長らく区別されておりませんでした。 有名な例として、英国王室の王冠にあしらわれた「ブラック・プリンス・ルビー」がございます。その名こそ「ルビー」ではありますが、後の鑑別により、実際にはスピネルであったことが判明いたしました。 このように、歴史上の数多くの「王侯貴族のルビー」と呼ばれてきた石の中には、実はスピネルが少なからず含まれていたとされております。 つまりスピネルとは、長いあいだルビーの影に隠れ、その名を語られることなく愛されてきた宝石 と言えるかもしれません。 近年になり宝石鑑別技術が発達し、スピネル独自の美しさと希少性が正当に評価されるようになってまいりました。 ⸻ ◆ 鉱物としてのスピネル スピネルは、化学的には MgAl₂O₄(マグネシウム・アルミニウム酸化物) に属する鉱物でございます。 • モース硬度:7.5〜8 日常使いにも十分耐えうる硬度を持ち、 指輪・ネックレス・イヤリングなど、さまざまなジュエリーに適した宝石です。...

スピネル|千年の誤解、静かな名宝石

◆ はじめに 深い紅、澄んだ青、やわらかなピンク、神秘的なグレー。 スピネル(Spinel/尖晶石)は、一つの名前でありながら、多彩な色彩と表情を宿す宝石でございます。 その歴史は古く、しかし「スピネル」という名が正しく認識されるようになったのは、実のところごく近年のことでございます。長い年月のあいだ、ルビーやサファイアと見なされ続け、ひっそりと王冠や宝飾品に寄り添ってきた——「千年の誤解を受けた宝石」 とも呼べる存在でございます。 本稿では、この魅力的な宝石スピネルについて、その歴史・産地・価格感・稀少性・種類・特徴を、Godfrey&c の視点から丁寧にご紹介申し上げます。 ⸻ ◆ 歴史 ― ルビーと間違われ続けた宝石 スピネルの歴史は、宝石の世界の中でも特に興味深いものでございます。 かつて、深紅のスピネルは、その色合いと透明感ゆえにルビー(コランダム)と長らく区別されておりませんでした。 有名な例として、英国王室の王冠にあしらわれた「ブラック・プリンス・ルビー」がございます。その名こそ「ルビー」ではありますが、後の鑑別により、実際にはスピネルであったことが判明いたしました。 このように、歴史上の数多くの「王侯貴族のルビー」と呼ばれてきた石の中には、実はスピネルが少なからず含まれていたとされております。 つまりスピネルとは、長いあいだルビーの影に隠れ、その名を語られることなく愛されてきた宝石 と言えるかもしれません。 近年になり宝石鑑別技術が発達し、スピネル独自の美しさと希少性が正当に評価されるようになってまいりました。 ⸻ ◆ 鉱物としてのスピネル スピネルは、化学的には MgAl₂O₄(マグネシウム・アルミニウム酸化物) に属する鉱物でございます。 • モース硬度:7.5〜8 日常使いにも十分耐えうる硬度を持ち、 指輪・ネックレス・イヤリングなど、さまざまなジュエリーに適した宝石です。...

タンザナイト|薄明の青に宿る

  ◆ はじめに 夕暮れから夜へ、夜から黎明へ。 そのわずかな境界にだけ現れる、静かで神秘的な色彩——。 タンザナイト(Tanzanite)は、その黄昏色にも似た青紫のグラデーションを宿す、類まれなる宝石でございます。地球上、唯一タンザニア・メレラニ鉱山でのみ産出され、その希少性と幻想的な色は、誕生から半世紀余りにして、瞬く間に世界の名門ジュエラーたちを魅了してまいりました。 一度見たら忘れられない深淵の青。その奥に静かに揺らめく紫。まるで、人生の黄昏と夜明けがひとつに溶け合うかのような色彩でございます。 本稿では、この唯一無二の宝石が辿ってきた歴史や価値、特徴、品格を丁寧にご紹介申し上げます。 ⸻ ◆ 歴史 ― 若き宝石が歩んだ神話 タンザナイトが人類に発見されたのは、非常に新しいことでございます。1967年、タンザニア・メレラニ丘陵で発見された本石は、鮮烈なブルーと成功確率の低い偶然性が、世界の宝飾史を驚かせました。 発見後、ティファニー社が「Tanzanite(タンザナイト)」という名称を付与し、瞬く間に国際市場へと広めました。その知性と品格を孕んだブルーは“サファイアに代わる新星”と称され、宝石界の地図を塗り替えたのでございます。 誕生の歴史が浅いにも関わらず、その存在はすでに“伝説”として語られ始めております。 ⸻ ◆ 産地 ― 世界でただ一か所 タンザナイトは地球上でタンザニアのみで産出されます。いかなる国・地域においても、商業的採掘は存在いたしません。 特に、メレラニ鉱区(Merelani Hills)と呼ばれる わずかな地域に限られており、その希少性は、ダイヤモンドをはるかに凌ぐとさえ言われます。 地球が数百万年という時をかけ、偶然が重なったその一点からのみ生まれる宝石——それがタンザナイトでございます。 ⸻ ◆ 色と美 ―...

タンザナイト|薄明の青に宿る

  ◆ はじめに 夕暮れから夜へ、夜から黎明へ。 そのわずかな境界にだけ現れる、静かで神秘的な色彩——。 タンザナイト(Tanzanite)は、その黄昏色にも似た青紫のグラデーションを宿す、類まれなる宝石でございます。地球上、唯一タンザニア・メレラニ鉱山でのみ産出され、その希少性と幻想的な色は、誕生から半世紀余りにして、瞬く間に世界の名門ジュエラーたちを魅了してまいりました。 一度見たら忘れられない深淵の青。その奥に静かに揺らめく紫。まるで、人生の黄昏と夜明けがひとつに溶け合うかのような色彩でございます。 本稿では、この唯一無二の宝石が辿ってきた歴史や価値、特徴、品格を丁寧にご紹介申し上げます。 ⸻ ◆ 歴史 ― 若き宝石が歩んだ神話 タンザナイトが人類に発見されたのは、非常に新しいことでございます。1967年、タンザニア・メレラニ丘陵で発見された本石は、鮮烈なブルーと成功確率の低い偶然性が、世界の宝飾史を驚かせました。 発見後、ティファニー社が「Tanzanite(タンザナイト)」という名称を付与し、瞬く間に国際市場へと広めました。その知性と品格を孕んだブルーは“サファイアに代わる新星”と称され、宝石界の地図を塗り替えたのでございます。 誕生の歴史が浅いにも関わらず、その存在はすでに“伝説”として語られ始めております。 ⸻ ◆ 産地 ― 世界でただ一か所 タンザナイトは地球上でタンザニアのみで産出されます。いかなる国・地域においても、商業的採掘は存在いたしません。 特に、メレラニ鉱区(Merelani Hills)と呼ばれる わずかな地域に限られており、その希少性は、ダイヤモンドをはるかに凌ぐとさえ言われます。 地球が数百万年という時をかけ、偶然が重なったその一点からのみ生まれる宝石——それがタンザナイトでございます。 ⸻ ◆ 色と美 ―...

Brand Color – 浪漫篇|青非青の記憶

(ブランドカラー・浪漫篇) かつて、この東方には“青”とも“緑”とも言い難い、 曖昧にして、しかし凛としたひと筋の色がございました。 それは**青非青(せいひせい)**と呼ばれる、分類の言葉ではなく、詩の名でございます。 ◆ 忘れられてゆく、東洋の色 母の生まれた月を象徴する色は 緑 にございます。しかし、西洋が示す「Green(緑)」とは決して同じではございません。 かつて、この地で語られた“緑”は、ただの色名ではなく、天や水、玉(ぎょく)の息づかいを宿し、青とも緑とも断じ得ぬ**ひとつの境(さかい)**を指しておりました。 しかし、西洋色調の流行が押し寄せ、高級ブランドが世界を席巻するにつれ、この曖昧に揺らぐ美は 「青か、緑か」その二択へと押し込められ、多くの人々の感性から、静かに姿を消してゆきました。 青にして青にあらず。 緑にして緑にあらず。 この「余白の美」を名として抱きしめてきたのは、 私たち東方の民でございます。 一方、異国の語にはこの色を一言に尽くせる語彙はございません。世界のどの辞書にも、正確に書き留める語はなく、ただ 東洋の胸の内にのみ咲く色 として、脈々と受け継がれてまいりました。 それは、誇りであり、哀しみであり、そして消えてほしくない祈りでもございます。 —— ゆえに、当ブランドが緑を主たる色として掲げておりますのは、亡き母を偲ぶとともに、 この東洋特有の“青非青”を、再び世に示したいとの願いがあるからにございます。 —— ◆ 青の、悠久 “青非青”の歴史を辿れば、その起源は古代へと遡ります。 天を映し、水を抱き、玉(ぎょく)の息づかいに寄り添いながら、この色は文化の最奥へと滲み入りました。 中国・宋の時代、皇帝徽宗は天青の淡をこよなく愛し、宮中にて命じ、**汝窯(じょよう)**という器を焼かせました。 それは...

Brand Color – 浪漫篇|青非青の記憶

(ブランドカラー・浪漫篇) かつて、この東方には“青”とも“緑”とも言い難い、 曖昧にして、しかし凛としたひと筋の色がございました。 それは**青非青(せいひせい)**と呼ばれる、分類の言葉ではなく、詩の名でございます。 ◆ 忘れられてゆく、東洋の色 母の生まれた月を象徴する色は 緑 にございます。しかし、西洋が示す「Green(緑)」とは決して同じではございません。 かつて、この地で語られた“緑”は、ただの色名ではなく、天や水、玉(ぎょく)の息づかいを宿し、青とも緑とも断じ得ぬ**ひとつの境(さかい)**を指しておりました。 しかし、西洋色調の流行が押し寄せ、高級ブランドが世界を席巻するにつれ、この曖昧に揺らぐ美は 「青か、緑か」その二択へと押し込められ、多くの人々の感性から、静かに姿を消してゆきました。 青にして青にあらず。 緑にして緑にあらず。 この「余白の美」を名として抱きしめてきたのは、 私たち東方の民でございます。 一方、異国の語にはこの色を一言に尽くせる語彙はございません。世界のどの辞書にも、正確に書き留める語はなく、ただ 東洋の胸の内にのみ咲く色 として、脈々と受け継がれてまいりました。 それは、誇りであり、哀しみであり、そして消えてほしくない祈りでもございます。 —— ゆえに、当ブランドが緑を主たる色として掲げておりますのは、亡き母を偲ぶとともに、 この東洋特有の“青非青”を、再び世に示したいとの願いがあるからにございます。 —— ◆ 青の、悠久 “青非青”の歴史を辿れば、その起源は古代へと遡ります。 天を映し、水を抱き、玉(ぎょく)の息づかいに寄り添いながら、この色は文化の最奥へと滲み入りました。 中国・宋の時代、皇帝徽宗は天青の淡をこよなく愛し、宮中にて命じ、**汝窯(じょよう)**という器を焼かせました。 それは...